やりたい農業のイメージづくり
自分が将来どのような農業をやりたいのか、目標やその目指す経営像を明確にすることは重要です。窓口相談や候補地を回る中で次第に具体化し、描いたイメージと現実とのギャップを埋めていくことが必要です。できるだけ多くの地域や就農者を見て回り、実例に触れましょう。
意欲と情熱
新規就農者のアンケート調査の回答の中には、「自分が本当に農業をやりたいのか、また農業に向いているのか、よく冷静に考えてから行動してほしい。都会の生活がいやだとか、サラリーマンがおもしろくないからといった動機で、農業を継続していくことはできない」という指摘もありました。退職する前に農作業に関する自分の素質や力を試してみましょう。市民農園など自分にできる範囲で体験してみてください。野菜との“相性”に気づいたり、何を作りたいを考えるうえで役に立つはずです。
行政も地元も協力はしてくれますが、自分の思い描いていた理想どおりの対応ができるとは限りません。「関係機関にお任せ」という姿勢でなく、最終的には自己責任において判断することになります。
経営管理
サラリーマンの場合は、自分で計算しなくても給与から税金が差し引かれ、自分で使える手取りは決まっていました。しかし、農業を始めると、農産物収入から経費を差し引いた残りの農業所得から、さらにいろいろな出費があります。“どんぶり勘定”にならないように、しっかりした経営管理を心掛けましょう。
また、給与から一括して引かれていた税金、福利厚生費のうち、市町村民税、国民健康保険料は前年度の所得額などに対し課税されますので、就農初年度に注意が必要です。
就農地域の選定
「どこで、何を作りたいのか」、その一方が決まればもう片方も自ずと見えてきます。「どんな作物を作りたいか」が地域を選ぶ重要な要素となりますし、生活条件も判断基準になります。作りたい作目への特別なこだわりがない場合は、その市町村で振興されている作目を選べば、既存の支援体制のもとで取り組めます。
一般的な転職と違って、就農地域の選択を間違うと、そこから転居しなければならなくなる事態も起こります。そうなると、それまでに費やした多くの時間と資金が無駄になります。
経営計画
どのような作物で、どれくらいの規模で経営をしていくかという経営計画をしっかり立てることが必要です。就農候補地を回る際には、名刺代わりの「営農計画書」を持参したいものです。それによって受け入れ側を動かすことになりますし、いろいろな意見を聞く中で実現性の高い計画へ成長していけたら良いと思います。
新規参入の場合、経営が軌道に乗るまでに3~5年かかると言われます。就農当初は生産や販売の計画は通常の○割というように割り引いて考えるのが無難です。
用意する資金については、営農ビジョンや家族構成、想定する生活レベルなどそれぞれの状況によって変わるため具体的な金額を挙げにくいのですが、これから始まる「研修期間の生活費」、目指す農業経営に必要な「営農資金」、所得が安定するまでの「生活資金」が必要になります。
地域社会とのコミュニケーション
生産と生活の場が一体化しているのが農業の特色です。成功のカギは、地域社会にどれだけ溶け込めるか、地域の人とうまくつき合えるかにかかっています。
集落の会合や行事、共同作業などに積極的に参加し、一定の役割も担うなどの意識的な努力も必要です。就農前の研修期間中から地元の農家と積極的につき合うことで、実際の就農がスムーズにいくことにもなります。研修は技術の習得だけでなく、地域と信頼関係を築く場と考えてください。
農地の確保
就農先の地域において、自分の人となりをよく知ってもらい、農業に対する意欲と営農計画を十分理解してもらって信頼関係をつくることが欠かせません。つまり、農地の取得にあたっては「人柄と信用」が第一です。
農地の情報は、買い手や借り手をよく知ってから初めて動き出します。農地を農地としてきちんと利用してくれる人、農地の耕作を続けていく意欲と能力を持っている人かどうかを見極めて、人柄をよく知ってから契約したいというのが農家の心情なのです。
農地を取得するには各市町村にある農業委員会で許可を受けます。新規就農者であるからという理由で許可されないことはありませんが、農地法等に定める要件を満たす必要があります。また、農地中間管理機構で借りるには、機構が定期的に行う農地借り受け希望者の募集へ応募します。
農地が貸しに出された場合、比較的条件の良いところは地元の農家によって可能な限り耕作されるのが一般的です。必ずしもはじめから希望条件にぴったりマッチした農地が手に入るものではないことを念頭に置いておく方が現実的です。何年か農業を続けていくと地域の人たちに人柄や農業に取り組む姿勢が認められ、「借りてくれないか」という話が持ち込まれるようになるものです。
販路の確保
経営が成り立つかどうかで、もう一つ大事なことはその作物の販路・販売先が確保されているかということです。
よく「自給程度でいいから」という相談者がいますが、他にしっかりした収入源がない限り、自給でまかなえる部分以外の出費は恒常的に続いていくので、生活全体では赤字の連続になります。生活必需品は必要になってくるので、完全な「自給自足」はできません。生産した農産物を商品として販売しなければ、経営も成り立ちません。
少量多品目を独自ルートで販売する場合、想定どおりの単価で販売できる保証はありません。また、作物の栽培管理から収穫、出荷のほか、代金回収まで多くの労力が必要となるので、この確保も慎重に検討すべきです。
住宅の確保
空き家はあっても先祖代々そこで暮らしてきたという歴史と愛着がしみこんでおり、なかなか借りにくいのが実状です。将来その持ち主が帰って来るかもしれないので貸せないという物件も農村には数多くあります。築後何十年も経過して傷みがひどく、予想以上に補修費がかさむ場合もあります。
また、天災などの非常事態に迅速に対応できるよう、ほ場まで近い場所に住宅を確保することが望ましいと言えます。
家族の理解
農業をしていく上で家族の理解を得ることは結婚している方、独身の方を問わず大切です。結婚している方にとっては農作業や農業経営および農村生活のパートナーとして、強くバックアップしてくれることになりますし、独身者にとっても親などの理解を得ることは精神的な支えや資金的な援助を受けたり、融資を受ける際の保証人になってもらうことなどにつながります。自分ひとりの問題と考えず、家族全員で就農に取り組んでいく姿勢が重要です。