就農者インタビュー

Start Farming

宇田圭佑さん
自営就農

産地のサポートでゆず農家として新規就農

宇田 圭佑さん(39歳)
[香美市物部/ゆず農家1年目]
芸西村の非農家出身

ゆずとの出会いと家族の理解

 大学卒業後は県外の会社へ就職してサラリーマンをしていましたが、だんだん両親も年をとってきたし、早いうちに地元へ帰ろうと思いUターンして転職しました。「農業をやってみたい」とは会社員時代から漠然と思っていましたが、そのときはサラリーマンを続けながら兼業で、地元の芸西村で栽培が盛んなサトウキビを作るのがいいんじゃないかと考えていましたね。
 高知県に帰ってからは知り合いがシカやイノシシの肉を分けてくれることがあり、その肉がとてもおいしくて「自分で捕って食べたい」と思い狩猟免許を取得し、会社の仲間と一緒によく山で猟をしていました。
 ある日、狩猟にハマった私に、妻が「ゆずと狩猟の可能性」というイベントがあることを教えてくれました。そのイベントは、香美市の移住促進の取組をしているNPO法人いなかみが、香美市物部町にスポットを当てた1泊2日の移住体験ツアーでした(2016年11月26、27日開催)。ツアーに参加した目的は狩猟の方がメインだったので、ゆずはおまけのような感覚で参加しましたね。笑
 しかし、その感覚はイベント初日、ゆずの収穫体験でガラッと変わってしまいました。開催日は11月末なのでゆずの収穫は終わりの時期になりますが、ゆず農家さんが収穫体験のためにゆずの実を採らずに残しておいてくれていたんです。いざ、ゆずの収穫作業を体験してみると「楽しくてしかたなかった」ですね。また、そのとき出会ったゆず農家さんがとにかく人としての魅力がすごかった。おおらかで優しく、ゆず農家のライフスタイルについて丁寧に教えてくれたので、自分もこんな農家になりたいと思いました。ゆずは年1回収穫する作物。1年かけてじっくり手を入れてゆずを作っていく過程にも魅力を感じました。収穫体験が終わる頃には、自分が将来ゆず農家をしているイメージができていましたね。笑
 兼業ではじめようと思っていた農業が、専業でゆず農家になると一気に方向転換。家に帰って家族に相談すると、妻からは「いいんじゃない」と快く賛成してくれました。今でもそうですが、家族が就農について理解してくれていることは本当に助かっています。

ゆずでの新規就農に向けて研修開始

宇田圭佑さん

 「ゆず農家になる」と決意してからは、就農に向けた準備がスタートしました。香美市役所高知県中央東農業振興センターなどへ相談に通い、ゆず農家として就農するための具体的な計画を作成していきました。
 そして、「ゆず農家になる!」と決意して8ヶ月後の2017年8月、新規就農に向けた研修をスタートさせ、ゆず農家への第一歩を踏み出しました。農業研修はトータルで1年11ヶ月、最初の3ヶ月は高知県立農業担い手育成センターで基礎研修、その後1年8ヶ月は就農地の物部のゆず農家さんのもとで研修をするという流れです。
 高知県立農業担い手育成センターでの基礎研修は農業の基本中の基本を学びました。私は農業は未経験だったので、最初に基本を学べたことは大きかったですね。また、私はゆずでの就農希望でしたが、今はゆずの補完品目として野菜(葉わさび)も栽培することになり、当時センターで習ったときは使わないだろうと思っていた畦立ての技術が役立っています。笑
 基礎研修が終わり、ゆず農家さんのもとではゆず栽培の実践的な技術と経営を学びました。農業は自然相手、また園地の条件によっても作業も変えていかないといけないので、それに対応できる応用力が身に付きました。産地での実践研修では、誰のもとで教わるかということが非常に重要だと思います。私は受け入れてもらったゆず農家さんのもとで研修できてよかった。栽培面積が広い農家さんだったので、すべての作業を几帳面にやろうとすると作業が終わらない。だけどその忙しい中でも丁寧に手を入れているところがありました。そこが一番大事なところだと見逃さず覚えていきましたね。そういった現場の農家ならではの作業のメリハリを学べたことは独立した今非常に大きかったと感じています。

産地のサポートでゆず農家として新規就農

 1年11ヶ月の研修を経て、2019年7月に無事ゆず農家として独立しました。農地は研修受入先のゆず農家さんや周りのサポートを得て、成木園60a弱と新植園50aを借りることができました。
 ゆずをはじめ、果樹は植えてから実が採れるまで数年かかるため、就農1年目から収入を得るためには、すぐに収穫できる園地(成木園)を確保しなければいけません。そのためにも産地での研修期間中には研修受け入れ農家をはじめ、周りの農家さんなどとの付き合いによる地域への溶け込み。また、JAなどの関係機関と良好な関係を築いていくことは欠かせません。また、自分自身の就農への覚悟や研修に対する姿勢も大事ですね。
 自分が楽しいと感じて就農を決めたので、今までに大きな苦労は無かったです。収穫の時期は前の会社の仲間も手伝いに来てくれ、就農1年目は当初の予想を上回る収穫量を上げることができました。

ゆずの魅力、物部の魅力

 ゆずの栽培は決して楽ではないです。ゆずは夏の時期に病気や害虫対策として農薬散布をするんですが、炎天下でカッパを着て作業するので、「こんなにキツいことが世の中にあったのか…」と思うほどでした。昔からの段畑での園地を引き継いだところでは傾斜が急なので、日々の作業もハードです。そして物部は青果ゆず(青果物として出荷されるゆず、高級料亭等で使用されている)の出荷量日本一の産地で、綺麗なゆずを作るために高い栽培技術が求められます。
 でもゆず農家はすごく楽しいですね。3年前収穫体験のときに感じたワクワク感はそのままです。物部はゆずだけじゃなく人の魅力がすごい。世話好きな人も多いので、自分が地域へ入ろうという姿勢があれば、周りはすぐ受け入れてくれると思いますよ。山に囲まれていて、イノシシやシカの被害を受けやすい地域なので、今では趣味の狩猟も地域の人から重宝されています。笑

高知県で新規就農を目指す人へアドバイス

宇田圭佑さん

 自分が「楽しい」という感覚を大事にしてください。私もそうだったように、実際に体験できる場所に足を運んでみてください。高知県は栽培品目も作型の種類も多いので、直感的に「これだ」と思う品目や地域がきっと見つかるはずです。
 しっかり自分に合ったものを見つけることで、どんなに大変なことがあっても楽しいと思えますよ。できたら物部のゆずを選んでくれたらうれしいですけどね。笑